表の家

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 つれづれ話の部屋
海外生活はたまらない
海外生活はたまらない スリランカ編16-20

20 火事は怖い

1985年10月18日早朝、スリランカの首都コロンボ市内にあった我々の現場事務所が火事で
燃えた。上がその現場事務所、下が燃えた図面。一月前の1985年9月末、私は現場から要
請されスリランカの首都コロンボに到着した。設計の人手が必要になり図面作成の助っ人とし
て二、三ヶ月の予定だった。到着した翌日から早速図面を描き始めた。描いて描いて描きまく
った。A1で20枚前後は描いたと思う。当時は全て手書き。

そして、10月17日(火)ほぼ予定通り書き上げ、その日はインテリア設計の先輩M氏(トルコ
人風顔立ちの通称`パラダイスMさん`)がコロンボ空港に到着する為空港に迎えに行かなけ
ればならない。私は早々に仕事を切り上げ図面一式を建設会社の建築担当N氏の机上に
置いて現場を後にした。日本からのエアランカ便は夜到着。

無事、パラダイスMさんをホテルに送り届け、自宅に帰りベッドについた。10月18日早朝未明、
自宅の電話がけたたましく鳴った。門番のバンダー君がとり私に取りつぐ。
「なんだ!なんだ!」とばかり電話をとると
「現場事務所が火事になった!」
「え?!」


慌てるようにして現場に駆けつけると、すでに鎮火した後。それにしても大変な事になった。我
業務において紙は命だ。火事になったら全ての財産を失う。あの状態では全て燃えたはずだ。
力が抜けた。とはいうものの、いつまでも現場にいてもしかたがない。一度自宅へ戻りもう一度
ベッドについた。とてもゆっくり寝ていられたものではなかったけれど……早朝現場に出勤。その
出勤時の状態が上の写真。

それにしても火事は怖い。泥棒は決して全てを盗んでいくわけではないが火事は全てを失う。
忙しいからこそコロンボに来た。現場を歩く余裕もないまま毎日製図板に向かっていた。一枚
一枚、一筆入魂しながら描いた。それが燃えてしまった。全て!暫くは魂の抜け殻のようになっ
てしまった。もう火事はこりごり、二度とあの経験はしたくない。

余談として:火事以降パラダイスMさんは火の神と呼ばれた。シンガポールオフィスの(パーシモン
のKさん)は水の神、何故かコロンボに到着するとスコールが降るからだが、もしあの日二人が同
時到着してくれれば水の神のKさんが打ち消してくれたと思う。

19 娘のうちは天使の様

我が家はDavidson Roadという幅六メートル程度の沿ってあり、たくさんの家が建っていた。家から数分西に歩くと中華人民共和国の大使館もあったが、知らない人同士でも会えば挨拶する庶民的な通り。
我が家はDavidson Roadから細い道を入った行き止まりのところにあり、Davidson Roadに面していた隣家には小さい女の子が何人かいて、おばあちゃんとサラン(スリランカの男性用腰巻き)を巻いた体格の良いおじさま、そして奥様等たくさん住んでいた。
日曜日の昼下がり家の前には隣の小さくて可愛い娘さんたちが遊んでいる。
小さな赤ちゃんを抱えながら遊ぶ。
赤ちゃんを振り回して危なそうに見えるが、赤ちゃん自身もそんな状況を楽しんでいるらしく、キャッキャ笑っている。

スリランカの女の子、取り分け10歳以下は天使のように可愛い。
それが大人になると段々見る影もなくなる。これは不思議。
だから……という訳ではありませんが、隣の家のおばあちゃん、奥様、娘さんたちの写真をご覧下さい。

これはスリランカ出国六年後に再渡航した時の写真。
私の事を覚えて下さり、大変歓迎していただいた。
一番手前の女の子が振り回されてキャッキャ言っていた子です。
多分右から二番目が抱えていた子だと思う。

18 「この木何の木、気になる木〜♪」

同じ宿舎に住んでいた設備設計のTさんとKandy(キャンディ)というスリランカの古都に旅行した。Kandyの観光スポットの中でも興味を惹いたのはPeradaniyaの「Royal Botanic Gardens」(ペラデニア植物園)だった。我々はResidents Visa(居住ビザ)を持っていたのでせいぜい入園料は5ルピー程度だったと思う。

ここを初めて訪れた時、印象は「熱帯」そのもので見たことのない植物だらけだった。幹周りで60〜70センチもある竹が6本、7本と一カ所にびっしりと株立ちしている。風に揺らぎ竹同士が擦れ合い「ギシギシ〜、ギシギシ〜」とただならぬ大きな音が漂ってくる。空に向かって、S字を描いて伸びていく背の高い木(○○パイン? 名前忘れた)細長いパラソルの様なインディアンウイロー(ヤナギの仲間)

一番有名なのが
「この木何の木、気になる木〜♪」で話題になったGiant Java WillowGiant JavaWillowはクワ科イチジク属でベンジャミンゴムという別名がある。

(さて、余談だがイチジク属は身近に色々あり、松戸の街角で見かけるイチジクは勿論同じイチジク属で仲間。観葉植物として家庭やオフィスに置かれるゴムノキも同じイチジク属で仲間。又、沖縄のガジュマルも同じイチジク属で仲間。みんな仲間)

上図はベンジャミンゴムの木のつもりで描いた。

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さて、植物園の中にレストランがあり、そこで食事をしようという事になった。私はスリランカカレーを注文する事にした。ただ、スリランカカレーはスリランカ人曰く「世界一辛い」と言うだけあって実に辛い。そこで注文する際に「あまり辛くしないでほしい」とリクエストした。店員が「本当に良いのか?」と言うので、私は「勿論」と答えた。
「本当に?」という店員の言葉が妙に引っかかったが、後は料理を待つだけ。

さて、やっと料理が運ばれてきた。食べる前にカレーの香りを嗅ぐと何と……!
「うえ〜……!臭い!」
これがもの凄く臭い。臭くて、臭くてたまらない。ココナッツオイルの臭いと`歯くそ`の臭いが一緒になった悪臭。台湾の臭豆腐を超える臭い。

レストランの調理レベルが低いわけではなかった。何故なら旅行に同行したT氏に運ばれてきたカレーは悪臭を感じなかったからだ。私は自問自答した。多分、ご飯もカレーもそもそも臭いがするものだったのではないか?ただスリランカカレーはそもそも辛いのでこの臭さが中和され、それがいわゆるスリランカカレーになっているのではないか?それは「`くさやの干物`や`フナ寿司`から塩分を抜き取って今まで同様美味しく食べられるか?」という問いに等しいのかもしれない。多分、最初から辛いスリランカカレーを食べないと美味しく食べられないのだ。

不幸な事にあの日の経験以降、あの臭いが鼻についてしまい、私は一切スリランカカレーをに出来なくなってしまった。

17 スリランカのカラスと日本のカラス


スリランカでは樹木に、街中に、ホテルに……様々なところにカラスがたくさん居た。休日の午後、ホテル・オベロイのプールサイドでピザを食べているとカラスに食べ物を狙われることもあった。ハシボソガラスのタイプが多く、体型は日本のカラスに比べ一回り小さいイメージがあった。
日本のカラスは伸びるように「カァ〜〜ァカァ〜〜ァ!」と鳴き、スリランカのカラスはせっかちに「カァカァカァ〜」と鳴く。

私は「スリランカのカラスと日本のカラス」という隠し芸を持っている。国を問わず出来る便利な芸で水元公園で子供達の前で披露したら「そっくり〜」と喜ばれてしまった。
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さて、我が宿舎の電話が鳴った。大抵、門番バンダー君が受話器を取るのでそのままにしていたが、どうやらバンダー君がいないらしい。仕方ないので、私が受話器をとり
「Yes, K○○ quarters!」と答えた。Quartersというのは宿舎、K○○は社名で「はい、K○○宿舎です」という意味。
(相手が日本人であれば言葉のアクセントで直ぐ分かるので日本語モードに直す)

相手「……」
返事が無い。
日本人かもしれないと思い、日本語で声を掛ける。

私「もしもし?」
相手「……」

やはり返事が無い。

ところが電話口には人の気配がある。そして電話が切れる。無言電話だ。その後度々同じ事が起きた。もしかすると泥棒が狙っているかもしれない。であればやはり怖い。不信に思った私はある日再びこの無言電話を受けた。

向こうが何も言わないのでこちらもだんまりを決め込むことにした。向こうも何も言わない。こちらも何も言わない。お互いに電話口に向かって黙りっこをしている状態になる。

私「……」
相手「……」


然し、いつまでも黙っている訳にはいかない。そこで私の心の中にイタズラ心が芽生えた。相手を驚かせたいと思ったのだ。そこで突然スリランカカラスの隠し芸を披露する事にした。

「カァ〜〜カァ〜〜カァ〜〜!」

電話口の向こうにいる無言の相手は多分かなり狼狽したと思う。バカバカしさと恥ずかしさですぐに電話を切ったが、切る瞬間、女性の微かな声を聞き逃さなかった。その後何も起きず、電話も掛かってこなくなり、私はその事実を忘れかけた。暫くしてバンダー君から意外な事実を聞いた。隣のメイドと付き合っている事。マスターが受けた無言電話の相手は実は変質者ではなく隣のメイドであった事。

「何だ隣のメイドか……」

隣のメイドは以前の失恋ガールフレンドと比べ決して美人とは言えないが、愛想が良く、目がクリッとして、明るく可愛い娘で、私の部屋のバルコニーから彼女の働いている姿は見え良く知っている娘だった。そのメイドが我が家のバンダー君へ愛の電話をしていたわけだ。

私がインフルエンザで寝込んでいた際、何故かこの隣のメイドはお見舞いに来てくれた。話をしたら流ちょうな英語で驚いた。バンダー君にとって隣家のメイドは過去の女子高生ガールフレンドとの失恋−傷心を癒してくれたのは確かなようだ。ただ、私の目の届かないところで二人が何をしていたのかさっぱり分からない……

16 金の切れ目が縁の切れ目


門番のバンダー君の給料は1500RS/月を支払っていた。1Rs=10円換算で、15000円弱。彼はまじめな性格でそれまでは給料の前借などをしたことはなかった。

そんなバンダー君がある日、我が宿舎にある女の子を連れてきた。ニコニコしながら「マイ・ガールフレンド、サー(私のガールフレンドです。ご主人様)」と紹介された。バンダー君は嬉しそう。彼女は制服姿でどうやら高校生のようだった。とても愛らしく美形だった。英語は堪能で優秀そうだった。話によれば二人は将来結婚したいのだとか……一度、バンダー君に連れられて彼女の家を見に行ったこともある。宿舎のあるDavidoson Roadの隣の街区、Kensington GNだったと思う。

そんな彼が「給料の前借りをしたい」と言ってきた。浪費家でなかった彼がどうしたのか?と訳を聞いた。話を聞いてみるとマイ・ガールフレンドの家は貧しいのでバンダー君の給料からお金を与えた。ところがバンダー君は悲しいかな薄給なので、直ぐ底を突く。お金がもらえないと「愛情がない。結婚しない」といい始めた。毎日けんかしていて辛い。そう言い始めるとバンダー君は突然嗚咽し始めた。

スリランカには敬虔な小乗仏教の信者が多く自分よりも貧しい人への施しは惜しまない優しい人が多い。例えば外国人からぼったくりで儲けた商売人が、私腹を肥やすのではなく、むしろお寺にその利益をお布施として寄附する……そういう民族だと言ってもいいかもしれない。これはキリスト教の「富ある者は貧しい者へ施しを」に共通している。

そして彼は言った。

バンダー君「給料を前借りさせてほしい」
「気持ちは分かるがその話はおかしいぞ!」

彼の話だけを聞いていると、このバンダー君のガールフレンドは実は性悪女で、すっかり貢がされているようだった。何故なら、彼女の家はそれほど小さくも貧しそうでもなかったからだ。その日はじっくりとバンダーと話し合い、悩みを聞いてあげた。個人的な事に口を出すのはあまり好きではないが、バンダー君を悪い方向に向かわせたくない。第一バンダー君は私に助けを求めているので何とかしないとならない。ただ、私の結論としては別離しかないだろうと思った。
バンダー君に「別れなさいよ」と言ったが、当事者は泥沼の中に居るわけで中々思ったようにならない。

そこで提案した。
「君が同意するなら君が一週間に必要最低限のお金として300Rs/週ずつ支払うことができる。その方が君も安心なんじゃないか?そうしないか?」
彼はその意見に同意した。それからバンダーの別離大作戦が進行した訳です。

それから数ヶ月彼女はバンダーを見切ってしまったらしく全然会いに来ない。金の切れ目は縁の切れ目だったのかもしれない。然しバンダーは毎日のように泣いていた。彼の泣き顔を見ているとこちらまで悲しくなってしまった。

しかしながらこういう事は時間が解決するもので、バンダーも元の明るい笑顔を取り戻し始めた。そうして、次のガールフレンドの話(スリランカのカラスと日本のカラス)に繋がる。